中國の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル
中國の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル 寶山鋼鉄原料購入センター原料二部 総経理 張 栄海
中國の鉄鋼産業におけるモリブデン需要 モリブデンは合金鋼を製造する際に鋼に添加される 元素であり、鋼の強度や耐食性、耐摩耗性、急冷度、 溶接性、耐熱性等の諸性質を強化できることから、鉄 鋼業で広く使用されており、同業界のモリブデン需 要量が國內総需要量の77%を占めている。また、モ リブデン消費の內訳は合金鋼約43%、ステンレス約 23%、工具鋼及び高速度鋼約5%、鋳込み約6%となっ ている。中國鉄鋼業におけるモリブデン需要はモリブ デン合金鉄が主流で、以下のような鉄鋼製品がある。 炭素鋼: 配管用鋼管(X50-X120、含有率Mo 0.1 ~ 0.8%)、 高圧ボイラー管、油井用管、ドリルパイプ、 厚中板等。 ステンレス: モリブデン含有率85%のステンレスの 鋼種は316、平均モリブデン含有率は 2.2%である。現在、國內三大ステンレ スメーカーである寶山鋼鉄、太原鋼鉄、 張家港浦項ステンレスのモリブデン含有 ステンレスの鋼種は316 が主流である。 特殊鋼: 高速度工具鋼(含有率Mo 約9%)、軸受鋼、 高溫合金鋼がある。特殊鋼1t 當たりのモリ ブデン消費量は0.2kg のレベルに達している。 中國鉄鋼業のモリブデンに対する品質要件は以下の とおりである(表Ⅱ-5-1)。 Ⅱ-5. 中國の鉄鋼産業におけるモリブデン需要とその購入モデル 寶山鋼鉄原料購入センター原料二部 総経理 張 栄海 表Ⅱ-5-1. 國內主要鉄鋼メーカーのモリブデン合金鉄に対する品質要件及び年間需要量 企業名基本銘柄 モリブデン品位要件 (単位:%) 2008 年の年間需要量予測 (単位:t) 寶山鋼鉄FeMo60-B 60 ~ 62 10,000 興澄鋼鉄FeMo60-A/B/C 55 以上6,000 太原鋼鉄FeMo55-B 55 以上5,000 武漢鋼鉄FeMo60-B 58 ~ 62 4,200 南京鋼鉄FeMo55-A 55 以上2,500 馬鋼FeMo55-A 55 ~ 65 2,500 舞陽鋼鉄FeMo55-B 55 以上2,200 鞍鋼FeMo55-B 58 ~ 62 2,000 張家港浦項ステンレスFeMo60-B 60 以上2,000 大冶特殊鋼FeMo55-B 55 以上1,500 衡陽鋼管FeMo60-C 55 ~ 65 1,000 貴陽特殊鋼FeMo60-B 60 以上1,000 中國首鋼FeMo60-B 60 以上800 湖南華菱湘潭鋼鉄FeMo60-C 55 ~ 65 700 広州聯衆ステンレスFeMo60-B 55 ~ 65 400 包頭鋼鉄FeMo60-B 約60 600 攀枝花鋼鉄FeMo60-C 約60 400 石家荘鋼鉄FeMo60-C 55 ~ 65 350 杭州鋼鉄FeMo55-B 55 以上350 合計- - 43,500 國內主要鉄鋼メーカーの購入基準はそれぞれ異な り、銘柄としてはFeMo60-A、B、C とFeMo55-A、B がある。また、モリブデン品位の限定範囲にもばらつ きが見られ、最も厳しい要件は寶山鋼鉄の60 ~ 62% Mo(62%を超えても価格は変わらない)で、その他の 鉄鋼メーカーは55% Mo 以上、58 ~ 62% Mo、55 ~ 65% Mo、60% Mo 以上と幅を持たせている。國內鉄 鋼メーカーが購入基準の中でモリブデン品位に関する 基準に幅を持たせているのは、目下の國産フェロ・モ リブデン中のモリブデン含有量が均一でないことを考 慮してのことであるが、購入基準に幅をもたせること は、國內フェロ・モリブデンメーカーの品質の向上と 製鋼時のモリブデン添加量の抑制という點で不利であ り、大なり小なり製鋼時のモリブデンの浪費を招くこ とになる。 2008 年の各國內鉄鋼メーカーのフェロ・モリブデ ン需要を見ると、ここ2 ~ 3 年、太原鋼鉄と張家港浦 項ステンレスの需要が急増しているが、これは主に両 社のステンレス生産量が伸びていることによる。また 興澄鋼鉄も多品種鋼や特殊鋼、高圧ボイラー管の生産 量が増加したことでフェロ・モリブデンの需要が大幅 増となっている。なお、鞍鋼、馬鋼、邯鄲鋼鉄、南京 鋼鉄、攀枝花鋼鉄、済南鋼鉄でも配管用鋼管の生産量 の増加に伴いフェロ・モリブデンの需要が顕著な伸び を示しており、配管用鋼管生産能力の急速な拡大が國 內のモリブデン需要を大きく牽引していることが分か る。1996 年から2001 年にかけて寶山鋼鉄と武漢鋼鉄 によって生産されたX60 とX70 の配管用鋼管が、そ (691) 106 2009.1 金屬資源レポート 中國タングステン・モリブデンフォーラム海外情報紹介 れぞれ陝西省-北京間のパイプラインと「西気東輸 (西部地域で生産した天然ガスを東部地域に送る)」プ ロジェクトに使用されて以來、國內鉄鋼メーカーが 次々に配管用鋼の開発を始め、今では鞍鋼、馬鋼、邯 鄲鋼鉄、南京鋼鉄、攀枝花鋼鉄、済南鋼鉄、太原鋼鉄 等で様々なグレードの配管用鋼管が生産できるように なっている。中でも武漢鉄鋼、鞍鋼、南京鋼鉄でフェ ロ・モリブデン需要が増えているのは主に配管用鋼管 の生産量が増えたことによる。 中國のモリブデン需要は今後も伸びていくことが予 想されるが、それは國內の鋼生産量の増加と多品種鋼 及び高付加価値鋼の比重の増大と歩調を合わせる形で 拡大していくものと思われる。 ここ數年、わが國の鉄鋼業は飛躍的な発展を遂げ、 ステンレスの生産能力が大幅に拡大している。鋼生産 量は2000 年の1.27 億t から2008 年には5.35 億t に増 え、ステンレス生産量は2007 年には700 萬t を突破し、 2010 年には975 萬t に達することが予想されている。 今後、中國の鉄鋼業はM&A・再編・新設等の方法を 通じて生産能力の拡大を図る一方で、舊式生産手段の 淘汰や製品構造の最適化を進めていくことになる。 政府が國內鉄鋼産業に対するマクロコントロールを 強化し、粗鋼製品の輸出を制限して優良かつ高品質な 鉄鋼製品の輸出を奨勵している中、國內の鉄鋼メー カーは鉄鋼製品の製品構造の最適化や多品種鋼の比重 の拡大、技術革新等によって競爭力を高め、利益拡大 を図っていくことが予想される。 潛在需要の増大が引続きモリブデン需要を牽引して いくものと思われる。モリブデン含有ステンレスや低 合金鋼、特殊鋼を中心にモリブデン需要が増え、モリ ブデンの國內生産量も増加傾向を維持していくことが 予想される。エネルギー分野では、天然ガスと石油の 需要が増え続けているが、地球規模の環境保護が叫ば れている中でクリーンエネルギーである天然ガス使用 量の大幅増が予想されるが、それにより石油及び天然 ガスの配管用鋼管の生産が牽引されていくものと思わ れる。中國の天然ガスパイプライン建設は高度成長期 を迎えており、長距離、大輸送量、高圧輸送という特 徴がある。配管用鋼管の將來的な総需要量は年間400 萬t が見込まれているが、これによりモリブデン需要 の急増が見込まれている。石油天然ガス業界は既に モリブデン需要の重要分野となっているが、最近は ディーゼルエンジン駆動による自動車産業や原子力発 電、航空産業もモリブデン需要の重要業種になりつつ ある。 中國は世界最大の鉄鋼消費國であり、モリブデン消 費量は世界全體のモリブデン総消費量の13%を占め ているが、歐州(30%)や米國(23%)のレベルには まだ及ばない。2007 年の世界全體の鋼生産量は約13.4 億t で、モリブデンの世界総消費量は金屬量換算で 20.4 萬t、うち鋼鉄業の消費量は金屬量換算で15.7 萬t であった。2007 年の中國の鋼生産量は約4.89 億t、モ リブデン総需要量は約4.2 萬t であったが、モリブデ ンの鉄鋼業における消費量は金屬量換算で約3.24 萬t であった。中國のモリブデン総需要量は世界総消費量 の20.6%を占めているが、世界全體のモリブデン需要 量と比べるとまだその比重が小さいこともあり、將來 的にまだ大きな発展の余地があると言える。なお、こ こ2 ~ 3 年、中國のモリブデン消費量は毎年10%以上 の伸び率で拡大している。 2008 年は國內外の経済で様々な不確定要素に見舞 われているが、中國経済も歐米諸國の経済疲弊、ドル 安、米國のサブプライムローン問題、石油価格の高騰、 人民元切り上げ等の影響を受けて製品輸出が伸び悩ん でいることに加え、國內のインフレ圧力により、GDP 成長率が現在の11%から9%か10%まで下がるとい う予測がなされている。世界経済の成長率も、2008 年下期もこのまま縮小することが予想されており、 2007 年の5%から2008 年は4.1%、2009 年は3.9%に まで下がるだろうと言われている。なお、2008 年第4 四半期の前年同期比は2007 年の4.8%から2008 年に は3%まで下がるが、2009 年には4.3%にまで回復す るというはっきりとした形の予測もなされている。 鉄鋼市場もまた複雑な市場圧力に曝されており、鋼 材を消費する川下産業の伸び率がどれも20%未満に なっている(汎用設備製造業18.4%、交通運輸設備製 造業15.8%)。この他にも以下のようなデータがある。 すなわち、 ① 2008 年7 月の全國工業ボイラー生産量の伸び率が 前月比2.6 ポイント減 ②民用鋼質船舶生産の伸び率も前月比10 ポイント減 ③ 金屬切削工作機械生産の伸び率が前月比4.3 ポイン ト減 ④全國の各種乗用車の販売額が前期比2%近くの減少 ⑤ 普通乗用車の販売額も前期比16.78%減と伸び率が 急激に縮小している。 ⑥ 主要都市における住宅市場に顕著な冷え込みが見ら れ、不動産開発會社の資金回収に深刻な影響が出て おり、それが固定資産投資全體の実質成長率の減少 を招いている。 ⑦ 國內外の諸々の不確定要素によって鉄鋼業の生産能 力の拡大が制限されている。 ⑧ 鉄鉱石・石炭・コークス・石油価格の高騰してい る。 ⑨ 電力不足が生産能力を拡大する上でのネックとなっ ている。2008 年上期の全國総発電量は前年に比べ 12.9%の伸び率であったが、この伸び率は前年比3.1 ポイント減となっている。7 月の総発電量は前年比 8.1%増であったが、伸び率は前年比7.4 ポイント減 となっている。 ⑩ 2008 年下期には深刻な電力不足量が予想されている が、國はまず鉄鋼業等の電力消費量の大きい産業へ の電力供給を削減してくるものと思われる。 ⑪ 2008 年下期には地震被災地の復興に必要な物資や (692) 2009.1 金屬資源レポート107 海外情報紹介中國タングステン・モリブデンフォーラム 発電用石炭の輸送が重點となり、交通運輸手段の不 足が見込まれているが、これも鉄鋼生産に影響を及 ぼすことになるものと思われる。 ⑫ 國は2008 年下期も貨幣引き締め政策を継続し、イン フレ抑制に重點を置くことが予想されているが、こ うしたことに起因する資金不足によって生産能力の 拡大に影響が出るものと思われる。 ⑬ 鉄鋼メーカーが流動資金不足に見舞われる。特に中 小企業の原料・燃料購入のための資金繰りが困難に なる。 ⑭ 地方政府は國が推し進める舊式生産手段の淘汰を受 けて経済成長モデルを転換し、環境保護とGDP 成 長を両立させることを模索しているが、各地域と國 家発展委員會との間で交わされた責任書では多くの 舊式生産手段が淘汰されることになる。 ⑮ 2008 年の中國鉄鋼製品生産量の伸びがペースダ ウンしている。1 ~ 7 月の粗鋼生産量の合計は 308,292,000t で、伸び率は前年比9.3%増であった が、2007 年の粗鋼生産量の伸び率は2006 年に比べ て15.7%増であった。 ⑯ 2008 年1 ~ 7 月までの鋼材の生産量の合計は 351,797,300t で伸び率は前年比は11.7%増であった。 ⑰ 2008 年7 月の粗鋼生産量の伸び率が初めて1 桁臺 に落ち込み、鋼材生産の伸び率も粗鋼生産量の伸び 率を下回る數字となっている。 現在、中國の鉄鋼業界は厳しい市場の狀況に加え、 鉄鋼大國から鉄鋼強國へと変貌する歴史的なチャンス かつ重要な変革期を迎えていると言える。こうした世 界の鉄鋼産業の潮流に対応していくために、國內の 1,000 萬t クラスの鉄鋼集団はM&A と再編、技術改 造を通じて超大規模化や循環経済への移行を図り、品 質向上と製品構造の最適化や安定した原料供給拠點の 確保に努め、ユーザーと間に戦略的協力関係を築き、 自前の研究機関を強化し、高い資質を備えた人材の育 成を進めている。従って、鉄鋼生産における主原料の 一つとしてモリブデン業界も進んで意識改革を行い、 サプライチェーンと共に発展していくという理念と意 気込みの下で、コストや品質、技術開発、サービス等 の分野で新機軸を打ち出し、絶えず変化している市場 ニーズに対応していくことが求められている。 Ⅱ-5-2. 寶山鋼鉄のモリブデン使用狀況とその需要見 込み 寶山鋼鉄は國內最大のフェロ・モリブデンの消費企 業であり、高級鋼の生産ではモリブデンが幅広く使わ れている。その主な需要先としては寶鋼分公司、特殊 鋼分公司、不銹鋼(ステンレス)分公司がある。主要 鋼種には以下がある。 炭素鋼: 配管用鋼管(X50-X120、含有率Mo 0.1 ~ 0.8%)、高圧ボイラー管、油井用管、ドリ ルパイプ、厚中板等。 ステンレス:鋼種316(平均含有率Mo 2.2%) 特殊鋼: 工具鋼及び高速度鋼(含有率約Mo 9%)、 軸受鋼、高溫合金鋼。 近年の寶山鋼鉄におけるフェロ・モリブデンの需要 狀況は以下のとおりである(表Ⅱ-5-2)。 年度寶鋼分公司特殊鋼分公司不銹鋼分公司合計前期比伸び率(%) 2006 4,745 1,800 160 6,705 15 2007 5,540 2,180 190 7,910 18 2008 6,030 2,750 720 9,500 20 表Ⅱ-5-2. 寶山鋼鉄のフェロ・モリブデンの需給狀況 (1) 寶山鋼鉄の発展戦略におけるフェロ・モリブデ ンの需要予測 2007 年、寶山鋼鉄は新たな発展戦略を打ち出した。 すなわち「規模拡大」という基本路線に加え、「高品 質化+規模拡大」、「M&A・再編と新設」を方針とす る成長戦略である。今後5 年間の目標として、鉄鋼の 生産規模を2007 年の2,800 萬t から2012 年には8,000 萬t 超のレベルに高め、販売収入額を500 億US $以 上に拡大し、世界の鉄鋼メーカートップ3 に名を連ね、 フォーチュン・グローバル500 社の200 位以內に入り、 総合的な競爭力を高め、中國鋼鉄業界の発展を牽引し ていくことを掲げている。 2008 年の寶山鋼鉄の鋼総生産量は約3,200 萬t で、 フェロ・モリブデンの需要量は1 萬t 弱に達すること が見込まれているが、これは國內フェロ・モリブデン の年間総需要量4 萬t 余りの約25%を占める。寶山鋼 鉄の鋼生産量の急成長、高品質鋼製品生産力の拡大、 原料購入の一元化が推進される中で、フェロ・モリブ デンの需要は今後も引続き増加傾向を維持していくも のと思われる。 (2)國內のフェロ・モリブデンの購入方法 現在の調達方法は次のとおり。 ①入札 鞍鋼に代表される入札による購入方法は、毎月の 使用量を當月の適當な時期に1 回または數回の入札 を行って購入する方法で、入札プロセスにおいて供 給側と需要側雙方による協議システムが確立されて いる。入札による購入価格は基本的に応札された最 低価格となる。入札による購入では、公開・公平・ 公正の購入原則が十分に実行されることになる。 ②協議による購入及び入札或いは相見積の併用 寶山鋼鉄、太原鋼鉄、武漢鋼鉄、張家港浦項ステ ンレス等に代表される方法である。國內モリブデン (693) 108 2009.1 金屬資源レポート 中國タングステン・モリブデンフォーラム海外情報紹介 業界の有力企業と長期契約を結び、一定の購入量を 維持し、需給雙方で「強強協力」を行う他、入札ま たは相見積による購入方法を組み合わせて、市場か らも一定割合の購入量を確保する。購入価格は市場 の動向に則るという原則によって決められると同時 に、常に価格設定のための原則を最適化する。 國內鉄鋼メーカーは自社の管理條件や購入上の特徴 に基づき最も適した購入方法によって購入・供給を行 い、フェロ・モリブデンの購入コストを効果的に抑制 する努力をしている。 (3) フェロ・モリブデンの購入方法は市場の需給環 境の変化に合わせて調整と最適化を図る 2008 年は、國內フェロ・モリブデン輸出は関稅が 20%に引上げられたことと輸出割當制の影響で輸出価 格が競爭力を失い、輸出量が目立って減少し、國內市 場の競爭が熾烈さを増している。2008 年下期の國內 市場は供給過剰の傾向にあり、國內モリブデン市場は 明らかに買い手市場の様相を呈しているが、フェロ・ モリブデンの購入方法は市場の需給環境の変化に合わ せて相応の調整と最適化が図られるものと思われる。
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